小学校の教室で、鉛筆削りをくるくる回したときの、木の匂いを覚えていますか。あるいは、祖母の家のたんすを開けたときの、しんとした匂い。香りは何十年たっても、その場面ごと、ふいに連れてきてくれます。
月経の前になると、いつもなら聞き流せる家族のひと言に、とがった声で返してしまう。あとで、自分がいちばん落ちこむ。そういう日は、ありませんか。
アロマの知識がなくてもかまいません。好きな香りをひとつ、手もとに置いておく。ここでは、月経の前と月経中、それから理由もなくイライラする日の、香りの使いかたを見ていきます。
1 イライラを引き起こしている要因
1−1 女性のバイオリズム
まず、イライラの原因として考えられる一つはこちらです。
一般に、PMS(月経前症候群)と言われています。
女性のからだのバイオリズムから考えると、ホルモンのバランスがきっかけになっています。おおよそ排卵後に黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌量の増加によって不安定な心とからだの状態になる方もいます。
しかしながら、黄体ホルモンの分泌は、妊娠するにあたって、よりベストな環境を体内で作るためには、必要不可欠なホルモンです。
このような変化が、定期的にからだの中で起きているのだ、ということをやんわりと受け止めてあげられると、イライラの出現する時期の気持ちが変わるでしょう。
1−2 女性のライフスタイル
仕事に家のことにと、役割が増えるほど、からだのバランスは崩れやすくなります。そのような生活の中で、毎月の月経が重い方は、月経中も調子が優れないため、一ヶ月のうちの半分をなんとなく不快という気持ちで過ごす方もいます。
イライラのきっかけになりやすいものを、四つ挙げてみます。
❶ ストレス ハードワークに於ける緊張 家庭内外での複雑な状況
❷ 食事スタイル カフェイン・タバコ・お酒などの刺激性のある嗜好品の多量摂取
❸ 疲れ 風邪や病気のあと、たまった心とからだの疲れ、睡眠不足
❹ 性質 責任感が強く、頑張り屋の方
思いあたるものがないか、眺めてみてください。
ただし、ご自分を責めるためではありません。「いま、こうなんだな」と認めるだけでかまいません。そこから、できそうなことをひとつ選べば十分です。
2 香りでできるセルフケア
イライラをやわらげる方法はいろいろありますが、ここではアロマセラピー(芳香療法)を取り上げます。
少し知っておくだけで、暮らしの中で手軽に使える道具になります。
心地よい香りを嗅ぐと、気分の改善になることは、すでに体感されているでしょう。香りは、感情との結びつきの強いものになります。
鼻から入った香りの情報は、感情や記憶にかかわる大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)に、ほかの感覚より近い道すじで届くといわれています。昔の場面を香りでふいに思い出すのは、このためです。
好きな香りをかいで気持ちがゆるむのは、気のせいではないのかもしれません。
精油は薬ではありません。病気を治すものではなく、自分をいたわる時間をつくる道具として使ってみてください。
2−1 月経1週間前からのケアと役立つ香り
この時期は、いつもと香りの好みが変わることがあります。「からだが変わってきているんだな」と気づく手がかりになります。
いまのあなたが「いいな」と感じる香りを選ぶところから始めてみてください。
2−1−1 精油を2本選んでみる
イランイラン・クラリセージ・サイプレス・カモミールローマン・ジャスミン・真性ラベンダー
ローズ・グレープフルーツ・オレンジ
[イランイラン]
甘く濃い、南の花の香りです。香りが強いので、ほんの少しから使ってみてください。
休んでいいはずなのに、どこかで自分を許せない時に、気持ちをゆるめてくれます。
[クラリセージ]
月経前の時期に昔からよく選ばれてきた、女性になじみの深い精油です。妊娠中と、お酒を飲む日は使わないでください。
気持ちが落ち着かず、戸惑っている時に。
[サイプレス]
和名は「イトスギ(糸杉)」。ゴッホが何枚も描いた、空に向かって炎のように伸びる木です。松に似た、すっとした森の香りがします。気持ちの浮き沈みが大きい時に、そっとかいでみてください。
森の中にいる時のように、息が少し深くなるのを感じる方もいます。
[カモミールローマン]
甘さと酸味が感じられるため「リンゴのような香り」とよく表現されます。
気持ちが沈んでいる時に、やさしく香ります。おなかを温めるトリートメントにもよく使われます。痛みが強い時や長く続く時は、婦人科に相談してください。
[ジャスミン]
何か満たされない、気持ちが沈んで仕方がない。そんな時に、ほんの1滴で部屋の空気が変わる香りです。
濃厚な力強い甘さが「精油の王様」と称されます。
[ラベンダー]
アロマがはじめての方にも使いやすい、いちばん身近な精油です。
眠る前や、気持ちを落ち着けたい時など、いろいろな場面で使われてきました。
[ローズ]
気品溢れる香りが「精油の女王」と言われています。
ひと吸いで、自分が大切に扱われているような気持ちになる香りです。昔から、多くの女性に愛されてきました。高価なので、ほかの精油と合わせて少しずつ使うのでもかまいません。
[グレープフルーツ]
果実そのままのすっきりした香りです。気持ちが沈んでいる時に、明るく照らし気分転換を導きます。甘いものに手がのびそうな時の気分転換にも。かんきつ類の精油は、肌につけたまま強い日ざしに当たると、しみになることがあります。肌にはつけず、香りで楽しんでください。
[オレンジ]
完璧主義で頑張り屋のあなたの心に爽やかな甘さをもたらしてくれます。
緊張して、なんとなく眠れない夜に。子どもからお年寄りまで、なじみやすい香りです。
いちばん大切なのは、かいでみて「好き」と思えるかどうかです。説明よりも、ご自分の鼻を信じてかまいません。
2−1−2 精油の使い方
○ 芳香を楽しむ
巷ではディフューザーなどが沢山並んでいますが、すぐに用意できなくても大丈夫です。
マグカップや耐熱性のある容器に熱いお湯を入れて、好きな精油を合わせて2〜3滴落としてみてください。小さなお子さんやペットの手の届かないところに置きます。
湯気とともに、空間に香りが心地よく広がっていき、あなたがより過ごしやすい空間が生まれます。
○ お風呂で楽しむ
精油を入浴剤として使うこともできます。ただし、精油は水に溶けません。直接お湯に落とすと、濃いまま肌にふれてしまうことがあります。
下記の方法で、バスソルトを作ってみることをおすすめします。
[1回分バスソルトの作り方]
① 粗塩または岩塩30gに、精油を3滴ほど落とします(多くても5滴まで)。
② 塩と精油が馴染むようにかく拌しましたら出来上がりです。
その日だけの、自分のためのバスソルトです。
塩に混ぜると、香りがお湯に広がりやすくなります。肌がぴりっとしたら、すぐに洗い流してください。
2−2 月経中のケア
この時期は、心もからだも、いつもより敏感になっています。いつもよりていねいに、自分を扱ってあげてください。
○ 腹部と腰部のトリートメント
お顔のケアはしても、お腹と腰のケアは日常に取り入れていますか?
[1週間分BODYトリートメントオイルの作り方]
用意するもの:精油、キャリアオイル30cc(トリートメントするためにベースになるオイルになります。ホホバオイル・オリーブオイル・ライスオイルなどが良いでしょう。)
① ゼラニウム・ラベンダー・サイプレス・カモミールローマン・オレンジから2種類セレクトしてください。
② キャリアオイル30ccに、2種類あわせて6滴までを落とします(はじめての方は3滴からでかまいません)。容器をよく振れば出来上がりです。使う前に、腕の内側に少しぬって、かゆみや赤みが出ないか確かめてください。
使用するときは、手のひらでオイルを温めるようにして、腹部と腰部をトリートメントしてあげてください。こういう時だからこそ、自分の手のぬくもりを、からだの内側に伝えてみてください。
心の中で「いつも、ありがとう」と声をかけながら。手を当てることを「手当て」と呼ぶのは、こういうことなのかもしれません。
2−3 月経に関係なく、イライラする日の香り
ストレスフルな環境の中ですから、時と場合によっては、月経の周期に関係なくイライラしたり悲しくなったりすることもあると思います。
そのような時に役立つ精油を幾つか挙げてみました。
・呼吸が浅いな・・と感じるイライラの時 フランキンセンス・サイプレス・パイン(松)・ヒノキ
・涙が出そうな切ない気分のイライラの時 ベルガモット・ネロリ・プチグレン
・自分を肯定できないイライラの時 ローズ・ジャスミン
・スカッとしたい気持ちのイライラの時 レモン・グレープフルーツ・ライム
人は、それぞれ個体差がありますし、置かれている環境も違いますので、すべてが当てはまるとは言い切れません。
お守りをひとつ探すような気持ちで、試してみてください。
注意 妊娠中・授乳中の方、持病のある方、お薬を飲んでいる方は、使う前に医師に相談してください。精油は飲んだり、原液のまま肌にぬったりしないでください。
3 まとめ
雨上がりの公園で、松や杉の木の下を通ったとき、青い香りがふっとして、思わず足が止まったことはありませんか。何も考えていなかったのに、肩のあたりが少し下がっている。香りは、頭より先にからだに届きます。
精油を何本もそろえなくてかまいません。かいでみて「好き」と思える香りがひとつあれば、イライラしている自分を責める前に、ひと呼吸おくことができます。うまく使えたかどうかも、気にしなくてかまいません。
迷ったら、木の香りから選んでみてください。サイプレス(イトスギ)やヒノキ、松の精油は、森を歩いたときの空気に近い香りです。外に出られる日は、街路樹の下で、葉や樹皮にそっと鼻を近づけてみるのでもかまいません。
好きな香りがわかることは、いまの自分がわかることでもあります。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。

