雨の日に、水たまりへ落ちる雨粒を眺めていたことはないでしょうか。ぽつんと落ちたところから輪が広がって、隣の輪と重なり、また消えていく。急いでいるはずなのに、なぜか目が離せなくなる。
曼荼羅(マンダラ)の基本の形は「丸」です。丸には始まりも終わりもなく、真ん中があります。円の中心に何かを置くと、見る人の目は自然とそこへ向かう。昔の人が祈りの図に丸を選んだのは、そういう丸の性質を、暮らしの中でよく知っていたからかもしれません。
この記事では、台風の目や花、切り株の年輪といった自然の中の丸から、古代の模様、神社の茅の輪、チベットの砂のマンダラまで、丸いデザインの意味をたどってみます。
1 自然界にある身近な丸
あなたの周りの丸や円。何が見当たりますか?
当たり前のように存在しているので、敢えて探してしまいそうになるのですが、すぐそこにあります。
〝丸や円を探しているあなたの眼〟丸いですよね。瞳も美しい曼荼羅模様です。
私達は、生まれながらにして円を持っています。そして、丸い地球の上に生まれました。
さらに・・丸い太陽のエネルギーを受けてこの世の恵みを受けているのです。
1−1 天気
天気に現れるマンダラは、穏やかでないものもあります。その一つが、台風です。天気予報のテレビを見ていてもわかるように、激しい渦巻きがそこには発生しています。その渦巻きが激しいほどに、台風の目がはっきりと表れます。
ここから感じ、見て取ることができるのは、自然のマンダラである台風は、自然は恵みをもたらすと同時に、ときに激しく壊すものでもあるということです。
このサイクルは、自然界に存在しているありのままの姿です。
1−2 人間のからだ
鏡を覗いた時に、まず映るのが瞳の中にある曼荼羅模様です。この美しい瞳をも構成しているのが、私たちのからだにある37兆個とも言われる細胞です。
きっと理科で学んでご存知とは思いますが、私たちの細胞一つ一つも曼荼羅です。中心に核があり、そのまわりをミトコンドリアなどの小さな器官が取り巻いています。
拡大したものをパッとみれば、創造的な美しい模様です。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、ウィトルウィウス的人体図にて、円で囲まれた人体図を描きました。
人のからだの比率が、円や正方形と美しく調和していることを描き表したものです。
1−3 植物
丸とは完全で、左右対称な美しい形です。
その代表といえば、花でしょう。見事に中心から外に開く様は、まさにこの世で最も華やかな美しいマンダラです。
そして、そのマンダラは木々にも存在しています。切り株を覗き込んだ時、そこにあります。年輪の中心から広がりゆく様子は、厳しい気候でも佇まいを変えずに耐え忍んだ姿さえも想像できます。
2 古代の装飾モチーフ
フラワー・オブ・ライフという幾何学図形があります。
7つかそれ以上の円を重ねた図形になります。
6角形の左右対称な構造とともに、花のようなパターンの模様に見られるので、このような名前が付いています。
この図形は、宇宙や生命のなりたちを形にしたものだと語られることがあります。レオナルド・ダ・ヴィンチも、この図形を手稿に書き残しています。
ただ、こうした意味づけは科学で確かめられたものではありません。図形の美しさに、人々が託してきた思いの記録として読むのがよさそうです。
この「フラワー・オブ・ライフ」の他に、「シード・オブ・ライフ」と「エッグ・オブ・ライフ」があります。
2−1 シード・オブ・ライフについて
7つの円で作られる、神聖幾何学図形の一つです。そして、フラワー・オブ・ライフの基本要素になります。
この形は、天地創造の7日間になぞらえて語られることがあります。
詳しくはこちらの記事にありますので、こちらをご覧ください。
2−2 エッグ・オブ・ライフ
フラワー・オブ・ライフを知っている方にも、ちょっと馴染みが薄いかもしれません。
これは、フラワー・オブ・ライフのデザインから取り出した、7つの円から成る図形のことを言います。
細胞分裂が進んだ、ごく初期の胚の形に似ているとも言われます。
2−3 フルーツ・オブ・ライフ
こちらの形状も、元の形はフラワー・オブ・ライフとなります。取り出した13の円から成る形状のことを言います。
この形は、あらゆるものの設計図だと語られることもあります。
六角形のつくりから、雪の結晶を思い浮かべた方もいるでしょう。
2−4 装飾が見られる場所ともの
フラワー・オブ・ライフについては、あちらこちらの場所で確認されています。
日本でも、似た模様を見かけることがあります。
神社の狛犬の中には、足元に玉を押さえているものがあり、その玉に網目のような模様が刻まれていることがあります。お参りの際に、のぞいてみてはいかがでしょう。
中国でも、紫禁城の太和門にある狛犬が足元に押さえている玉の模様が、フラワー・オブ・ライフに似ていると言われています。
建築物では、エジプトのアビドスにあるオシリス神殿の柱に、この模様が描かれているのが知られています。ただ、いつ、誰が、どんな意味で描いたのかは、はっきりしていません。
このように、重なり合う丸の模様は、国や宗教を超えて、あちこちで見つかっています。
丸を重ねて美しい形をつくることに、人は昔から心をひかれてきたのでしょう。
3 神道と丸
日本の伝統的なスポーツの位置付けがある相撲ですが、ここにも円が存在しています。
それは、相撲の起源が神道の儀式にあるからなのです。
円の中は、聖域であるということ、そして神に捧げる儀式であることが始まりです。
また、神社での「茅の輪くぐり」というのも見たことがあるでしょう。
浄化の儀式の一つですが、この茅の輪をくぐることで、禊をしてけがれを祓い、災難を予防するというものです。
かつて、茅の輪くぐりが行われる6月30日あたりは、天然痘などの疫病が流行ることが多かったためにこのような儀式を行うことになっていったと言われます。
4 時を刻む丸
マンダラには、時の持つ周期性という概念もあります。時は、秒や分、時間、日、週、月、年といった単位で刻まれます。
さらに、月の満ち欠けのような、くり返すリズムもあります。
太陽ものぼり、沈んでいきます。
そして、命も有限であるのです。
4−1 時輪タントラ
チベット仏教には、「時輪タントラ」と呼ばれる経典があります。
僧侶たちは、この経典に基づき、色のついた砂でマンダラを描きます。
この経典では、星の動きから人の呼吸のリズムまでが、「時(カーラ)の輪(チャクラ)」としてつながっていると説かれます。
何日もかけて描かれた砂のマンダラは、儀式が終わると崩され、川に流されます。形あるものはとどまらない、という教えでもあるのです。
5 まとめ
子どものころ、公園の切り株に腰かけて、年輪を指でなぞりながら数えたことがあるかもしれません。途中でわからなくなって、また真ん中からやり直す。あの小さな円の重なりは、木が一年ずつ季節を越えてきた記録でした。
時計も暦も今ほど身近でなかった時代の人々は、月の満ち欠けや太陽の動き、花の形の中に、くり返す丸を見つけていました。曼荼羅や茅の輪は、そうした先人の観察を、形にして残したものとも言えます。
丸い模様を見て心が落ち着くのは、それが特別な力を持っているからというより、私たちが毎日、知らないうちに丸に囲まれて暮らしているからなのかもしれません。
次に木の下を通る時は、少しだけ足を止めて、見上げてみる。枝が四方に広がる様子も、真ん中から外へひらく、ひとつの丸です。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。


