信号待ちの交差点で、青に変わるまでの数十秒が、やけに長く感じる日があります。前の人のかばんが少し当たっただけで、胸の奥がかっと熱くなる。家に帰ってから、どうしてあんなに腹が立ったのだろうと、自分に驚いてしまう。そんな日が続いていないでしょうか。
子どものころ、プールの時間に水にあおむけに浮かんで、耳まで水につかったまま空を見ていたことがあります。まわりのにぎやかな声がふっと遠くなって、自分の息の音だけが聞こえていました。瞑想は、あの感じに少し似ています。
瞑想というと「無になる」「何も考えない」と思われがちですが、実際はもっとやわらかいものです。息や、目の前のひとつのものに気持ちを向けているうちに、波立っていた心が少しずつ静まっていく。道具も特別な場所もいりません。ここで紹介する方法を、気が向いたときに一つだけ試してみるのでもかまいません。
1 瞑想から何が得られるの?
瞑想について、少し理解を深めるには、どんな変化が起きるのかを知っておくと安心です。感じ方には個人差がありますが、続けていくうちに、感情の波に振り回されにくくなっていく、と言われています。
そうなった自分を、少し想像してみてください。今より少しだけ、落ち着いて物事を見られる自分。そんなイメージに近いかもしれません。
具体的には、次のようなことが言われています。
1−1 続けている人が感じていること
続けていくうちに、自分の気持ちの動きに気づきやすくなり、目の前のことに落ち着いて向き合えるようになっていく人もいます。
1960年代から、瞑想は多くの研究の対象になってきました。
ただ、研究によって結果はまちまちで、瞑想は病気を治すものではありません。ここでは「効くかどうか」より、「数分休んでいい理由がひとつ増える」くらいに受けとってもらえたらと思います。
続けている人からよく聞かれるのは、こんな変化です。
・自分の状態に気づきやすくなる
・集中力が高まる
・怒りや不安といった感情と、少し距離を置けるようになる
・寝る前に、考えごとがぐるぐるしにくくなる
・姿勢が整いやすくなる
・人との関わり方が、穏やかになることがある
2 こんな人も瞑想をしていた
スティーブ・ジョブズが瞑想を続けていたことは、よく知られています。
きっかけは19歳の頃、インドで瞑想と出会ったことだったといいます。その後も禅に親しみ、伝記『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン著)の中でも、瞑想について語った言葉が紹介されています。
瞑想をしていると、騒がしかった心が落ち着き、それまで見えていなかった小さなことに気づけるようになる、とジョブズは話していたそうです。
グーグルの社内研修「サーチ・インサイド・ユアセルフ」のように、会社の研修に瞑想を取り入れるところも出てきました。
けれど、瞑想は特別な人だけのものではありません。台所でお湯がわくのを待つ数十秒にも、できることです。
3 瞑想の2タイプ
瞑想をするのに、必ず目を閉じなければならないとか、あぐらを組まなければならない、というものではありません。
瞑想法にはとても幅広い種類があるので、自分の環境に合った方法でかまいません。
大きく分けると、「内向」と「拡張」の2タイプになります。
3−1 内向とは
伝統的なヨーガの瞑想法です。言葉や音節(マントラ)、音、イメージ、あるいは自分の呼吸に意識を集中します。
意識を自分の内側に向け、心の動きを見つめることで、気持ちを静めていきます。肩や首のこわばりがほどけていくのを感じる人も多い方法です。
3−2 拡張とは
禅の瞑想に近いのが、拡張型です。周りで起きていることに、そのまま注意を向けます。
そうすることで、自分の中の内なる観察者が育ち、周りのことに気づきながらも、そこから少し離れて見られるようになります。
内向より少し難しい方法ですが、外を歩きながらでもできます。公園で、葉が風に揺れる音や鳥の声に、ただ耳を向けてみる。それも、このタイプの瞑想です。
4 瞑想と呼吸
瞑想のやりかたは、数えきれないほどあります。どれを選んでもかまいませんが、どのやりかたでも大切にされているのが呼吸です。
多くの人にとって、自分の息に気づくことが、いちばん入りやすい入口だからです。呼吸に意識を集中すると、肉体に意識が向き、外の世界と少し距離を置くことができます。
4−1 呼吸の基礎
知っておきたい、いくつかのルールがあります。
○ 呼吸することを忘れないでください。当然のことのようですが、何かに集中すると息を止めてしまう人がいます。自分の呼吸を観察し、どんな風に呼吸しているか感じてみてください。
○ 特に指示がない時は、鼻で呼吸します。
○ くつろいだ気分で呼吸します。はじめは、ゆったりとした一定のペースを保ちます。全身の緊張が解けてきたら、さらに自然で抑えた呼吸をします。
○ 肩で呼吸しないようにします。瞑想が深くなるほど、呼吸は静かにリズミカルになっていきます。
5 忙しい時のための瞑想
レジの列、電車の遅れ、電子レンジの残り一分。「待つ」時間は、思いのほかイライラのもとになります。この「待つ」時間を、瞑想の時間に当ててしまうのもひとつの方法です。
瞑想は、いつでもどこでも実践できます。特に、怒りっぽくなっていたり、イライラしていると感じる時には、試してみる価値があります。
5−1 満員電車の中での瞑想
1.座って、または立って、視線をほんの少し下げます。
2.息を深く吸い、口から吐きます。息を吐きながら、唇と顎、肩の力を抜きます。緊張が、口や指先、足の裏から抜けていくのを感じてみてください。
3.これを数回繰り返します。
5−2 ランチタイム瞑想
公園の木の下のベンチや、池のそばなど、少し落ち着ける場所があれば理想的です。15分ほど、何にも邪魔されない時間を確保してみてください。
① 背筋を軽く伸ばして座ります。両足の裏を地面につけて、両目は閉じるか、揺れる木の葉や流れる水、動く雲など、自分に合ったものを眺めます。
② 肩とのどを柔らかくして、呼吸を意識します。軽やかで心地よい呼吸を感じてみてください。
③ 午前中に気になっていた出来事があれば、それを思い浮かべます。そのことが、風に乗ってどこかへ飛んでいくとイメージしてみてください。消えていったら、そのまま少し休みます。準備ができたら、いつもの意識に戻ります。
6 まとめ
小学校の休み時間、校庭の大きな木の下に寝ころんで、葉のすきまからちらちら光る空を見ていたことはありませんか。風が吹くたびに葉が鳴って、光の形が変わっていく。それを眺めているあいだ、さっきの友だちとのけんかも、次の授業のことも、どこかへ行っていました。
瞑想は、特別な修行ではありません。電車の中の数十秒でも、昼休みの十五分でも、自分の息に気づく時間をつくること。うまくできたかどうかは、気にしなくてかまいません。
近くに木があれば、昼休みにその下まで歩いてみる。枝先の葉が揺れるのを、息を三回するあいだだけ眺めてみる。それも立派な瞑想です。
イライラは、あなたが悪いのではなく、そろそろ休んでいいという合図です。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。


