イライラしない毎日のための10分──歩く・湯船・ぼーっとする

仕事帰りに改札を出ると、夕方の風に、どこかの家の夕飯の匂いがまじっていることがあります。カレーだったり、焼き魚だったり。疲れているのに、なぜかまっすぐ家に帰りたくない。そんな日はありませんか。

家に着けば台所に立ち、湯船は後回しにしてシャワーで済ませ、スマホを眺めたまま一日が終わる。イライラのもとは、忙しさそのものより、一日のどこにも自分のための時間がなかったことなのかもしれません。

ここでは、一日のうちの10分ほどを自分のほうへ戻すやりかたを集めました。朝の光のなかを歩く、一駅ぶん歩いて帰る、湯船に浸かる、ただぼーっとする。毎日きちんと続けなくてかまいません。気が向いた日にひとつ試してみるくらいで、ちょうどいいのです。

1 心地よいからだを作る[アクティブ編]

ウォーキングや山歩きは、年齢を問わず始められます。

人を集める必要もなく、空いた時間にひとりで始められるのもいいところです。からだを動かすと、からだと心にどんなことが起きるのでしょうか。

1-1 朝日を浴びて「歩く」を日常に増やしてみる

朝の光を浴びながら歩くと、こんないいことがあります。

1-1-1 体内時計を動かす

人には、体内時計があります。朝に目が覚めて、夜になると眠くなる。この一日のリズムを、からだの中で刻んでいる時計です。

また、体温やホルモンの分泌も、この時計に合わせて一日のなかで上がったり下がったりしています。海外に行くと、時差で体内時計がずれて、頭がぼーっとする「時差ボケ」になります。

つまり、体内時計がずれると、体調をくずすきっかけになります。このずれを直すのに役立つのが、朝の光です。

朝の光を浴びると、体内時計が「いまが朝」と合わせ直されます。毎朝カーテンを開けて、外の光を入れるだけでも、ちがいます。

1-1-2 気持ちが落ち着きやすくなる

朝の光や、リズムのある散歩は、脳の中のセロトニンという物質の働きを助けるといわれています。セロトニンは、気持ちを落ち着かせる働きにかかわる物質です。

1-1-3 朝の空気を吸いこむ

朝いちばんの空気は、ひんやりとして、まだ車も人も少なく、匂いがすんでいます。昼間とはちがう、湿った土や葉の匂いがすることもあります。

「マイナスイオン」の効き目は、はっきりしたことがわかっていません。けれど、朝の空気を胸いっぱいに吸いこむと気持ちがいい、ということは、多くの人が知っています。

雨上がりの朝の公園や、滝のそばの、あのすがすがしさを思い出してみてください。

1-2 仕事帰りの一駅ウォーキング

仕事帰りに歩くなんて、と思うかもしれません。疲れている日は、無理をしなくてかまいません。少し余力のある日に、一駅だけ試してみてください。

夕ごはん前のからだは意外と軽く、歩きはじめると、思ったより足が前に出ることがあります。

1-2-1 仕事帰りウォーキングのメリット

たくさん歩くことをお勧めしているのではありません。およそ一駅分ですから、ほんの10~20分です。歩く速さは、少し息がはずむくらい、となりの人と話ができるくらいが目安です。

リズムよく歩いていると、重く考えていたことが、思っていたより軽く感じられるようになることがあります。

歩くことは、気分の落ちこみや不安をやわらげる助けになることが、研究でも報告されています。また、「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎの筋肉が動くので、足もとの血のめぐりがよくなり、冷えやむくみの助けにもなります。

さらに、毎日歩いている道のりであっても、その日のお天気や季節によって見せる光景と匂いが違うのです。ひょっとしたら、素敵な穴場カフェの発見があったりもします。

そういう小さな発見が、帰り道を少し楽しみにしてくれます。少しの距離でかまいません。

街路樹の葉の色、どこかの庭の金木犀、頬にふれる風。いつもと違うものに気づけたら、それだけで十分です。

2 心地よいからだを作る[リラックス編]

疲れがたまっている週末は、ソファで横になったまま一日が終わってしまうこともあります。それが必要な日もあります。

ただ、同じ姿勢のままずっと過ごしていると、からだがこわばって、かえって月曜の朝がだるく感じることがあります。

動きたくない日は、こんなことから始めてみてください。横になる前の少しの時間でも、からだと気持ちをゆるめることはできます。

2-1 汗を流せる入浴時間

一日の終わりに、湯船にゆっくり浸かっていますか。忙しい日が続くと、つい「シャワーで十分」になってしまいます。

湯船に浸かると、からだも気持ちもゆっくりほぐれていきます。ただ、熱すぎるお湯はからだを目覚めさせてしまうので、38〜40℃くらいのぬるめに。床につく1〜2時間前に入ると、眠りに入りやすくなります。

ここで入浴時間を充実させるコツをお伝えします。

2-1-1 入浴剤を利用する

ドラッグストアには、いろいろな入浴剤が並んでいます。その日の気分で選ぶのも、お風呂の楽しみです。

少し手をかけるなら、アロマのバスソルトも、かんたんに手作りできます。

作りかたは、こうです。

天然塩30gに、好きな精油を3滴ほど(多くても5滴まで)落として、よくかき混ぜます。精油は水に溶けないので、塩に混ぜてから湯船に入れます。湯気といっしょに、浴室に好きな香りが広がります。迷ったら、ヒノキやサイプレスなど、木の香りから試してみてください。

かんきつ系の精油は、肌がチクチクすることがあるので、少なめに。肌の弱い方、妊娠中の方、持病のある方は、使う前に確かめてください。

からだが温まって、うっすら汗がにじんでくるころには、肩の力も抜けています。お風呂のあとは、コップ一杯の水を。

2-2 少しの時間でも瞑想

いちばん手軽なゆるめかたが、瞑想(めいそう)です。

瞑想というと、難しいやり方があるのでは・・・と思われるようですが、そんなこともありません。1日5分でかまいません。「ただ、ぼーっとする」だけでも十分です。

瞑想が不安やストレスをやわらげる助けになることは、海外の研究でも報告されています。かんたんなやりかたを紹介します。

① 静かな部屋で、手は膝に置いて楽に座る。

② 目を閉じてリラックスする。

③ 呼吸は鼻を使う

④ 鼻から吐く時だけ、数を数える。

数がわからなくなったら、また1から数えればかまいません。5分ほど続けると、頭の中が少し静かになっているのに気づくはずです。

3 まとめ

一駅ぶん歩いた帰り道、いつもは素通りしていた街路樹の葉が、風でさらさらと鳴っていたことに気づく。湯船のなかで、今日はじめて肩が下がったのを感じる。10分でできるのは、せいぜいそのくらいのことです。

それでも、そのくらいのことで、張りつめていたものが少しゆるむ日があります。何かを身につけるための10分ではなく、自分に戻るための10分として使ってみてもいい。

次に一駅歩く日は、木の多い道を選んでみてください。秋なら、イチョウやケヤキが少しずつ色を変えていて、同じ木が昨日と今日でちがう顔をしています。

帰り道の10分は、家に着く前に、自分のところへ寄り道する時間です。

そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。

→ 林浴とは──森が、大人の保健室になる

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komorebi 林浴ライフデザイナー 西川えりこ