夜、布団に入って電気を消したとたん、昼間に言われたひと言や、明日の段取りが次々に浮かんでくる。からだは横になっているのに、頭だけがまだ働いている。そんな夜に、覚えはないでしょうか。
マインドフルネスは、その頭を「いま、ここ」へ連れもどすための練習です。むずかしい修行ではなく、息を数える、目の前のものを眺める、といった小さなことから始められます。
この記事では、マインドフルネスとは何かを短く紹介したうえで、はじめての瞑想のしかたと、うまくいかない時の方法をお伝えします。うまくできなくてかまいません。途中で考えごとが浮かぶのも、ごくふつうのことです。
1 マインドフルネスとは
2016年6月には、NHKスペシャル「キラーストレス」という2回シリーズの番組で、ストレスへの向き合いかたのひとつとして、マインドフルネスが取りあげられました。
こわいタイトルでしたが、内容はわかりやすく、自分をもっと大切にしようという気持ちにさせてくれるものでした。
ストレスが、心だけでなく、からだのさまざまな不調にかかわることは、以前から知られていました。
そのしくみが、医学の研究で少しずつわかってきたのです。
1−1 マインドフルネスの意味
マインドフルネスという、聞きなれないその意味とは、まとめてわかりやすく言うならば、「今、ここで起きていることを感じて、きちんと受け止めること」ということなのです。
もとになっているのは、仏教の瞑想の考えかたです。1970年代の終わりに、アメリカの医学者ジョン・カバット・ジン博士が、宗教色をのぞいたストレス対処のプログラムとして病院に取り入れ、そこから世界に広まりました。
シンプルでありながら、奥の深い考えかたです。
今、ここで起こっていることの中には、プライベートや仕事も含めてのことになります。それをありのままに受け止めるのは、言葉で言うのはかんたんでも、実際にはなかなかできるものではありません。
それを、少しずつでも行えるようにするというのが、マインドフルネスのあり方であり、マインドフルネス瞑想の持つ効果や意図なのです。
言いかたを変えれば、ストレスに振りまわされにくい心の習慣を、少しずつ育てていくということでもあります。
1−2 マインドフルネスと似た言葉
いまではすっかり耳慣れた「マインドフルネス」という言葉ですが、似た意味の言葉は、以前からよく使われています。
たとえば、自覚・気づき・集中などです。
反対の状態は「マインドレスネス」と呼ばれ、注意があちこちに散らばった、心ここにあらずの状態を指します。
2 マインドフルネスの方法
よく知られていて、実践されているのが、瞑想と呼吸法です。
ただし、瞑想にも呼吸法にも、たくさんのやりかたがあります。先にありますように、仏教の教えが背景にありますので、教えの数だけあるということがお分かりいただけるでしょう。
ですから、「これがマインドフルネス瞑想です」と一つに言い切るのは、むずかしいのです。
3 マインドフルネス瞑想
瞑想は、いま感じていること──息や、からだの感覚や、聞こえてくる音──に、静かに注意を向けるものです。取り組んでみると、感覚としてわかってきます。
やりかたに、決まった正解はありません。
そこで、誰もが取り組みやすい瞑想の方法をご紹介しましょう。
3−1 マインドフルネス 瞑想法 その1
締めつけのない、楽な服装で行います。何分やらなければ、と考えなくてかまいません。はじめは3分ほどでも十分です。
では、始めてみましょう。
① 背筋を伸ばして、床に座ります。足を組めるようであれば組んでみてください。椅子に腰かけてもかまいません。
目は閉じるか、視線を斜め下に落とします。
② 自然に浮かんでくる思いもあるでしょう。過去を思い出したり、先のことが不安になったりして落ち着かない時は、こんなふうに考えてみます。
「過去も未来も、現在の私の心の中の想像にすぎない・・」と
③ 息を吐くたびに、一つ数を数えます。10まで数えたら、また1に戻ります。
④ 考えごとが浮かんできても、無理に抑えなくて大丈夫です。
「あ、考えごとをしていた」と気づいたら、また息を数えるところに戻ります。この「気づいて、戻る」のくり返しが、マインドフルネスの練習そのものです。
3−2 どうしても瞑想がうまくいかない時の方法
集中しようと思えば思うほどに、雑念が襲ってくるということもあります。そういう時には、こんな方法を試してみてください。
3−2−1 動かないものを見続ける
目を閉じると、次から次へと考えごとが浮かんでくる。そんな時は、目を開けたまま行う方法もあります。
① 動かない、美しいものを見つけます。たとえば、机の上の花、拾ってきた小石、窓から見える木などです。
② 静かに座って、それを見ます。吐く息を1から10まで数えたら、また1に戻ります。
③ もういいかな、と思えたところで、そっと視線を離します。
3−2−2 ガイド付きの瞑想をしてみる
ひとつのことにずっと注意を向けるのは、かんたんではありません。そんな時は、音を手がかりにすると、心を静かに保ちやすくなります。
よく使われるのは、シンギングボウル(金属の鉢を鳴らす楽器)の響きや、川のせせらぎ・雨の音などの自然の音です。動画サイトで「シンギングボウル」「雨の音」などと探すと、たくさん見つかります。
あなたが心地よく瞑想に入れる音を見つけてみてください。
4 マインドフルネス瞑想で期待されていること
期待されていることは、いくつかあります。
まずは、先ほどの番組でも紹介されていた、ストレスとのつきあいかたです。
研究では、ストレスの感じかたがやわらぐことや、うつ病の再発を防ぐ助けになることが報告されています。長く続く痛みとのつきあいかたを助けるプログラムとしても、病院で使われてきました。ただし、病気を治すものではありません。治療中の方は、主治医の治療と並べて取り入れてください。
また、続けている人の脳の一部に変化が見られた、という研究もあります。
からだを休めるのと同じように、頭にも、休むための練習が要るのかもしれません。
5 まとめ
子どものころ、公園の地面にしゃがみこんで、アリの行列をじっと眺めていたことはありませんか。どこへ行くのか目で追っているうちに、時間がたつのを忘れていた。あのとき、頭の中には、明日の心配も、きのうの後悔もありませんでした。
マインドフルネスは、大人になって忘れかけていたあの時間を、練習でもう一度とりもどすことなのかもしれません。前へ前へと進むことに慣れていると、立ち止まるのは、なまけているようで落ち着かないものです。けれど、立ち止まらなければ見えないもの、受け止められないものもあります。
座って目を閉じるのがむずかしい日は、外に出て、一本の木を眺めてみるのでもかまいません。風で葉がゆれる。光の当たりかたが変わる。鳥が枝から枝へ移る。それを目で追っているあいだ、あなたはもう「いま、ここ」にいます。
何もしない時間は、なまけではなく、休むための時間です。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。


