気分転換は、部屋からはじめられる──自然を側に置く暮らしかた

イチイの赤い実

部屋にいるのに、休んだ気がしない。そんな夕方はありませんか。

片づけも掃除もした。それでも、なんとなく空気が重い。理由はわからないけれど、ソファに座っても肩が下りない。

そういうとき、足りないのは片づけではなく、生きているもののほうかもしれません。植物がひと鉢あるだけで、部屋の感じが変わることがあります。大げさな話ではなく、気づいたら目がそっちを向いている、くらいのことです。

1 生きている植物を、ひと鉢

暮らしの中に自然を取り入れるいちばん簡単な方法は、植物を置いてみることです。ただし、手のかかりすぎないものから始めるのが、長続きのこつです。

植物は根から水を吸い上げて、葉から空気中に返しています。乾いた部屋の空気がやわらぐのは、そのためです。それに、目に入る緑の量が増えると人は落ち着きやすくなる、という研究もあります。何かをしなくても、ただそこにあるだけでいいのです。

枯らしてしまった経験があって気が引ける、という方もいるかもしれません。世話が下手なのではなく、置き場所が合っていなかっただけ、ということがほとんどです。日の当たりかたと、水やりの間隔。その二つだけ気にしてみてください。

では、育てやすいものから順に見ていきましょう。

1−1 パキラ

手を広げたような葉をつけたパキラ

「手を挙げた」ような葉が印象的な観葉植物です。丈夫で、少し暗い場所でも育ちます。南国を思わせる姿は、部屋の中で目を引く一本になります。

置き場所:リビング

1−2 ガジュマル

太い根が張り出したガジュマルの鉢

沖縄では、キジムナーという精霊が宿る木として語り継がれてきました。多幸の木とも呼ばれ、お祝いに贈られることの多い植物です。

太い根が今にも歩き出しそうな姿をしていて、眺めていると少しおかしくなります。乾燥にも強いので、はじめての一鉢に向いています。

置き場所:よく目に入るところ

1−3 アイビー

つるを伸ばしたアイビーの葉

花言葉は「友情」「永遠の愛」。結婚のお祝いに選ばれることの多い植物です。種類が多いので、葉の形や斑の入りかたで好きなものを選べます。

つるが伸びていくので、棚の上に置くと下に垂れて、部屋の線がやわらかくなります。

置き場所:玄関・リビング・洗面まわり・ベランダ

1−4 アレカヤシ

葉を細く垂らしたアレカヤシ

サラサラと優雅に伸びた葉が、爽やかな印象です。葉の流れに動きがあるので、人が集まる場所に置くと、空間が少しやわらぎます。

置き場所:リビング

1−5 ユッカ

力強く伸びる姿から「青年の木」とも呼ばれます。寒さや乾燥に強く、葉が横に広がらないので、狭いところでも育てられます。

置き場所:寝室

1−6 ジャスミン

甘く広がる香りです。沖縄で飲まれている「さんぴん茶」が、実はジャスミン茶だとご存じでしたか。種類によって咲く時期が違うので、花屋さんで聞いてみてください。

1−7 ラベンダー

おなじみの香りのハーブです。紫という色そのものにも、気持ちを静める働きがあるとされています。乾かして袋に入れ、枕元に置いてもいいでしょう。

置き場所:リビング・寝室

1−8 ミント

すっきりとした香りで、気分を切り替えたいときに向いています。ヨーロッパでは古くから親しまれてきました。よく育ちすぎるので、鉢はほかのものと分けて植えるのが安全です。

置き場所:好きなところに

1−9 ローズマリー

鉢植えのローズマリー

香りが強く、少し触れただけで手に残ります。台所のそばに置いておくと、そのまま料理にも使えます。

置き場所:リビング・仕事をするところ

2 昔から神聖とされてきた木

神社に行くと、木のそばだけ空気が違う気がする。そんなふうに感じたことはありませんか。

日本では昔から、特定の木を神聖なものとして扱ってきました。榊(さかき)、杉、檜(ひのき)、楠(くすのき)、松。神社に植えられ、社殿の材に使われ、お正月には門に立てられてきた木々です。

なぜ、その木が選ばれたのでしょう。理由のひとつは香りだと言われています。檜や杉には強い香りの成分があり、虫や菌を寄せつけにくい。だから腐りにくく、長く建っていられる。人が「清らかだ」と感じてきたものの正体は、案外そういう、はっきりした性質だったのかもしれません。

これは暮らしにも持ち込めます。難しいことではありません。

  • 榊を一対、水を替えながら飾ってみる(花屋さんで買えます)
  • 檜のまな板や、檜のコースターを使ってみる
  • 木の器やお箸に替えてみる

木は、木製品になっても香りの成分を出しつづけます。台所に檜のまな板が一枚あるだけで、水に濡らしたときにふっと香ります。その一瞬が、思いのほか効きます。

3 木の記憶を持つ石

石をひとつだけ挙げるなら、琥珀(こはく)です。

琥珀は、数千万年前の松や杉の樹液が固まって、化石になったものです。石に見えますが、もとは木の樹脂です。中に、当時の虫や葉がそのまま閉じ込められていることもあります。

手に取ると、石なのにひんやりしません。こすって温めると、かすかに松のような香りがすることがあります。何千万年も前の森の匂いです。

窓辺に置くと、光を透かして蜂蜜のような色になります。部屋の中に、森の時間をひとかけら置いておく。そういう楽しみかたのできる石です。

4 音を変えてみる

部屋の感じを変えるのに、いちばん手っ取り早いのは音かもしれません。

モーツァルトを聴かせると植物が元気になる、という話が一時期よく語られました。科学的に決着のついた話ではありません。ただ、聴いた人が心地よくなるのは確かです。

楽器によって、部屋の空気の変わりかたが違うのは面白いところです。

4−1 弦楽器(バイオリンなど)

流れが生まれます。止まっていた空気が、動きだすような感じです。

4−2 金管楽器(トランペットなど)

場がパッと明るくなります。朝、気持ちが重いときに。

4−3 ハープ

雰囲気が軽くなります。自然の中にいるような心地よさがあります。

4−4 木管楽器(フルート、クラリネットなど)

ゆったりとした寛ぎが出ます。自分の真ん中に意識が戻ってくる感じです。

4−5 ピアノ

角のある部屋を、丸みのある感じに変えていきます。

音を選ぶのが難しければ、窓を開けるだけでもかまいません。夕方の風の音や、遠くの鳥の声。それも、立派に音を変えたことになります。

5 まとめ

部屋を整えるというと、片づけや掃除のことだと思いがちです。でも、片づいた部屋でまだ休めないのなら、足りないのは自然のほうかもしれません。

ひと鉢の植物。檜のまな板。窓辺の琥珀。開けた窓から入ってくる風の音。どれも、遠くへ出かけなくても手に入るものです。

森に行けない日のほうが、暮らしにはずっと多い。だから、部屋の中に少しだけ森を置いておく。

そういう暮らしかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。

→ 林浴とは──森が、大人の保健室になる

週に一度、
静かな手紙が届きます

なんとなく疲れている。
眠りが浅い。
自分のことは、いつも後回し。

そんな日々に、週に一度だけ、短い手紙をお送りしています。

森へ行きましょう、という話ではありません。
遠くの森へ行かなくても、窓の外の一本の木で足ります。
誰かに癒してもらうのではなく、自分で癒える力を思い出していく——
そういう時間のつくりかたを、季節に沿ってお伝えしています。

ご登録のあと、三日間だけ「林浴とは何なのか」のお話を三通お届けします。
読み終えた方には、十二か月ぶんの手紙を集めた「季節の手紙帖」をお贈りします。

はじめての方は、まずこちらから
→ 林浴とは──森が、大人の保健室になる

komorebi 林浴ライフデザイナー 西川えりこ