台所に立っていても、ソファに座っていても、どこか気が張っている。家族が帰ってくる時間が近づくと、なおさらです。かといって外に出れば出たで、人の目や予定に追われて、やっぱり休まらない。
「気が休まる場所がない」。口に出すほどのことではない気がして、誰にも言わずにきた方も多いと思います。家はみんなの場所で、自分のためだけの場所ではない。ちゃんとしたい人ほど、そう感じているのではないでしょうか。
ここでは、その「休まらなさ」がどこから来るのかと、気が休まる場所をどこに見つけるかを、私自身の経験もまじえて書いてみます。
1 家にいても気が休まらないのは、目が休んでいないから
家の中で目に入るものは、どれも「次にすること」につながっています。たたみかけの洗濯物、流しのコップ、カレンダーの書き込み、冷蔵庫に貼ったプリント。座っていても、目に入るたびに、頭は段取りを組みはじめます。
外に出ても、近くを見ているあいだは同じです。スマートフォンの画面、信号、時計、人の顔色。私たちの目は一日じゅう、手もとと目の前を行ったり来たりしています。
からだは座っていても、目が仕事を続けている。気が休まらない理由のひとつは、そこにあるのかもしれません。
2 私が「目から休まる」と感じた場所
長野県の東御市(とうみし)のあたりは、千曲川ワインバレーと呼ばれる地域です。川を挟んで、なだらかな高台があり、どちらの高台からも絶景を見ることができます。
小さなワイナリーでは、外の席でお食事をいただけます。お外でお食事をいただくことは、目から休まります。
栃木県足利市のワイナリーには、斜度38度の斜面に葡萄の木が植えられた畑があります。レストランから見る斜面の葡萄畑も良いのですが、その斜面を登りきった先の景色は絶景です。まわりを木々に囲まれた斜面で、見わたすと山々のグリーンが広がり、ホッとします。東屋があり、そこでゆっくりワインを楽しむ時間は最高でした。
どちらも、豊かな自然が広がる中にあります。葡萄だけではなく、土の力や、近くの森の木々の元気さを感じます。行くなら、緑の美しい5月・6月、そして9月・10月がおすすめです。
ワイナリーではありませんが、栃木県那須町の「那須高原ビール 愛の森レストラン」も、緑に囲まれたレストランです。お食事のあとに、敷地をゆっくりお散歩するのも気持ちの良いものです。近くには、那須街道の両側にアカマツの林が広がる「一万歩の森」もあり、森林浴の散策路が整えられています。山に登らなくても、JR黒磯駅からタクシーやバスで行けます。夏休みを外した夏の平日が、静かでおすすめです。
我を忘れる時間というのは、こういうことなのかもしれません。
3 気が休まる場所の、三つの共通点
振り返ると、気が休まった場所には似たところがありました。
ひとつめは、遠くまで見わたせること。高台から見る景色には、片づけるものも、返事をしなければいけないものもありません。目がはじめて、手もとの用事から離れられます。
ふたつめは、屋根の下ではなく、外であること。風が通り、光が変わり、葉が揺れる。目の前のものが勝手に動いてくれるので、こちらが何かを探さなくてもいいのです。
みっつめは、そこに木があること。斜面に並ぶ葡萄の木の列も、まわりを囲む木々も、遠くの山々のグリーンも、ただそこにあるだけで、景色に落ち着きをくれます。
家の中に「自分だけの部屋」をつくるのは難しくても、この三つがそろう場所なら、外にいくつか見つけられます。
4 遠くまで行かなくても、目は休まる
ワインバレーまで出かけるのは、毎週というわけにはいきません。でも、遠くを見わたせて、外で、木がある場所は、意外と近くにもあります。
- 近所の公園の、少し高くなっている場所のベンチ
- 川沿いの土手から見る、向こう岸の並木
- 歩道橋の上から見下ろす、街路樹の列
- 駅前の大きな木の下で、空を見上げる数十秒
コーヒーを一杯持って、外のベンチで飲む。それだけでも、家の台所で飲む一杯とは、目に入るものがまるで違います。
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5 まとめ
子どものころ、ジャングルジムのいちばん上や、裏山の少し高いところまで登って、町を見下ろしたことはありませんか。自分の家の屋根を探して、あれが学校、あれが駅、と指でたどっていた。あのときは、気が休まるかどうかなんて考えもせず、ただ遠くを見ていました。
気が休まる場所は、誰かが用意してくれるものではないのかもしれません。家の中に見つからなくても、かまいません。少し高いところへ、少し外へ、木のあるほうへ。目が遠くへ向かったとき、からだはもう、休むほうへ動きはじめています。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。

