湯船につかっているのに、頭の中では明日の段取りを組み直している。夕飯を食べながら、昼間に言われたひと言を何度も思い返している。からだはここにあるのに、心だけが別の場所にいる。そんな時間が、一日のうちにどれくらいあるでしょう。
「マインドフルネス」という言葉を耳にするようになって、もう何年も経ちます。けれど瞑想と聞くと、姿勢を正して、正しいやり方で、毎日続けなければいけないもののように感じて、手が出ないままの方も多いのではないでしょうか。
もとの意味は、もっと素朴なものです。過去や先のことに向いている注意を、「今ここ」に戻すこと。ここでは、その考え方と、どんな変化が報告されているのかを、順に見ていきます。
効き方は人それぞれです。読みながら、ご自分の毎日に当てはまるところがあるかどうか、ぼんやり眺めるくらいでかまいません。
1 マインドフルネスとはどんなものか
一言で表すとしたら、「今を大切にする」ということになります。
私たち人間は、「過去」に囚われがちで、そこに思い煩うということもあります。また、まだ来ぬ「未来」に不安を抱くこともあります。
その「過去」や「未来」にある注意を「今」に集中させていくことが、ベストマインドを保てるというわけです。
ベストマインドが保てるならば、幸せに生きる早道になるのではないでしょうか?
継続することで、良い効果をもたらすマインドフルネスですが、短時間で行えるようになっています。無理なく取り入れられるのは、多忙な現代人にはとても嬉しいものです。
2 マインドフルネスを取り入れているのは誰?
マインドフルネスは、主に瞑想という形で取り入れられています。よく知られているのは、アップルの創業者です。
それは、スティーブ・ジョブズです。
彼がなぜ取り入れていたかといえば、「ストレスを軽減させる」を目的としていました。ストレスをコントロールできる「心の技術」が身につくことによって、直観力が冴えて、より新しいものを生み出す力が増していくというものでした。
2−1 ビジネス界が導入するマインドフルネス
2010年代には、米グーグルやインテルなどの大手企業が、社員研修に取り入れて話題になりました。
ここには、ストレス耐性をつけていくということに加えて、「集中力」を高めて、自分の気持ちをコントロールする、いわば「心の筋トレ」とも言われています。
続けている人からは、ストレスがやわらぐことに加えて、発想が柔らかくなったという声も聞かれます。
マインドフルネスな状態にあることで、心のコントロール術は、あらゆるベストパフォーマンスを生み出すのです。
2−2 心理的不安定さにも効果がある
マインドフルネスという言葉が知られるようになって、脳科学の進歩に伴い、マインドフルネスが、脳の機能と構造に影響を与えているということが実証されるようになってきました。
瞑想というものについても、主観的な気持ちの変化だ・・・と思われていたところが多かったのですが、効果が明らかになってきています。
例えば、2013年に延べ被験者数1万2000人のデータを対象にメタ分析がなされて、「マインドフルネスは心理的な問題の解消に効果があり、その中でも不安・うつなどの症状に効果がある」という報告がされています。
また、マインドフルネスを継続的に行うということから、感情のコントロールと関係する、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療の場でも、マインドフルネスを取り入れたプログラムが研究されています。つらさが続いているときは、ひとりで試すより先に、医師やカウンセラーに相談してみてください。
3 マインドフルネスの効果と活用
マインドフルネスが、私たちにとってより良い心の状態を保つために行われているというのは、ご理解いただけたと思います。
そこで、このような世界でも取り入れられて、効果や実績とともに結果を導き出している例をご紹介しましょう。
3−1 アスリートのマインドフルネスの効果
あらゆる競技の世界で活躍しているトップアスリートには、「今」に集中することが、結果に結びつくということが少なくありません。
日頃の厳しい練習の成果を最大限に出しきるには、マインドがより良い状態にあることが一番です。
マインドフルネスの瞑想によって得られる効果は次になります。
① ネガティブな感情や思考をコントロールできる。
② 試合やプレーでの集中力が増します
③ 自らのからだに対する気づきが高まります
④ チームワークを向上させます。
自分の力を発揮するということは、最高のマインドをキープするということです。これは、競技に限るものではなく、このサバイバルな社会に「生きている」私たちに必要なのだと考えさせられます。
3−2 人として取り入れるマインドフルネス
どの世界にもありますが、嫌味なことを言う人はいるものです。そのような人物のことが気になり始めると、「また言われるかもしれない・・・」と不安な感情に支配されて、精神状態においては良くない状態になります。
ですが、マインドフルネスな状態を保てるようになれば、自分の心のありようを冷静に受け止めることができ、どうすれば良いのかという道筋を自分で立てることができるのです。
他人の発言や、自分の外側で起きていることに対してブレない自分があるというのは、とても心強い状況だといえるでしょう。
4 マインドフルネスはどこから来たのか
実は、マインドフルネスの根源は、仏教の教えにあるのです。
スティーブ・ジョブズがマインドフルネスを導入していたと言いますが、彼は仏教の教えや瞑想を日常的に取り入れて、素晴らしいパフォーマンスを上げてきていたのです。
曹洞宗の僧侶・乙川弘文(おとがわ こうぶん)師に師事し、カリフォルニア州の禅センターで本格的に仏教を学んでいました。
また、日本でも、パナソニックの創業者・松下幸之助氏や、京セラの創業者・稲盛和夫氏が、仏教や禅に親しんだことが知られています。
ただ、仏教の教えはあまりに深いものです。
そこで、仏教色を置いておき、現代人が日常的に取り入れやすい形にしたものが、マインドフルネスの考え方になりました。
ただ、仏教の用語にある「念」という字を見ると「心を今に置く」と見ることができます。「今」に意識を向けることは、もともと私たちの暮らしの近くにあったのです。
5 まとめ
子どものころ、公園のベンチの足もとで、アリの行列をずっと眺めていたことはないでしょうか。どこから来てどこへ行くのか、目で追っているうちに、気づけば夕方になっていた。あのとき、昨日のことも明日のことも、頭にはありませんでした。
マインドフルネスは、何か新しい技術を身につけることというより、あの状態を大人になってから思い出すことに近いのかもしれません。
だから、きちんと座って、正しく呼吸しなくてもかまいません。洗濯物を干しながら風の冷たさを感じる。信号待ちのあいだ、街路樹の葉が揺れるのを見ている。それだけでも、心は少しのあいだ「今」に戻ってきます。
とくに、木や土や風のあるところでは、注意は自然と外へ向きます。頑張って集中しなくても、葉っぱの音のほうが、こちらを「今」に連れ戻してくれるのです。
そういう時間のつくりかたを、林浴(りんよく)と呼んでいます。


